忍者ブログ
趣味で書いているレビューをネットに転載
[279]  [278]  [277]  [276]  [275]  [274]  [273]  [272]  [271]  [270]  [269
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『綺麗好きな澄田さん』

2年C組の細田友晴です。
はじめまして。
じゃ、さっそくだけど坂上君、君は掃除を真面目にするほうかな?
……人並み程度ね。
熱心ってわけじゃないけどサボったりはしないんだね。
いやね、僕は当番がトイレになるとどうしてもはりきっちゃうんだよ。
掃除が終わって見ると、水に塗れたタイルが夕日を浴びてキラキラと輝いているんだ。
あの達成感は言葉にできるものじゃないよ。
テストでいい点を取るよりずっと気持ちいいんじゃないかな。

それで、何年か前のこの学校の生徒にとても掃除好きな人がいたんだ。
僕なんかじゃ比べものにならないほどのね。
その人は澄田涼子さんといったんだ。
彼女はとても熱心に掃除をする人でね。
汚れが残っていたら放課後まで残ってそれを落としていたんだ。
すごいよね。
僕もそこまで打ち込む事はできないよ。
でも、彼女は特別マジメだとか綺麗好きというわけではなかったんだ。
ただ、そこに汚れがあるのが嫌だったのさ。
同じじゃないかって?
うーん、例えばだね、壁に落書きがあったとするだろう。
普通の人は雑巾でちょっとこすったりして、それでも落ちなければ諦めるよね。
綺麗好きな人だって、洗剤を使ったりするけど、やっぱり擦って消えなければそれで諦めるさ。
もしくは壁と同じ色で上から塗りつぶしてしまうかだね。

でも、澄田さんは違う。
彼女は落書きが落ちなければ、壁を削り取ってしまうんだ。
彫刻刀を持ってきて、壁の表面をガリガリとね。
当然、そんな事をすれば壁がボロボロになってしまう。
でも、澄田さんは気にしないのさ。
彼女にとっては綺麗かどうかより、汚れがそこになければそれでいいのさ。
要するに目障りなものがそこにあると我慢できない性格だったんだね。

ある日、彼女は体育館脇のトイレの当番になった。
そう、今は使用禁止になっているあのトイレだよ。
その頃はまだ使う事ができたんだ。

当時、あのトイレは不良たちの溜まり場になっていた。
だから、誰も掃除しないし、使う人だっていなかったんだ。
でも、誰も使わなかったとしても少しずつ汚れてはいくものだろう。
澄田さんはそれが我慢できなかったんだ。
自分の担当した場所が汚いままというのは彼女のプライドが許さなかったのかもしれない。
もともと偏執狂みたいな部分のあった人だったしね。
よせばいいのに不良たちの目の前でトイレを掃除し始めたんだ。
入り口の近くにある洗面台を綺麗にしようとしたのさ。
さすがに彼女も不良がいる奥の方へは行きたくなかったんだね。
でも、不良たちにとってはそれすらも気に食わなかった。
舐められていると感じたんだ。
澄田さんにとって自分の掃除場所がテリトリーなように、不良たちにとってはその場所は彼女ら専用のものだったのさ。
なまいきな態度をとったとかなんとか言って彼女をリンチしたんだ。
その日は不良たちの虫の居所が悪かったのかもしれない、自分達を舐めるとこうなるっていう見せしめだったのかもしれない。
澄田さんへの暴力はいつも以上に激しいものだった。
無抵抗な彼女をずっといたぶり続けたんだ。
それが何十分も続いた後の事さ。
澄田さんは痙攣したみたいに身体を震わせた後、泡を吹き始めたんだ。
そして、そのまま動かなくなった。
さすがに不良たちも焦ったよ。
まさか死んでしまうとは思わなかったのさ。
なにも考えずに暴力を振るっていたからね。
殺すつもりはないけど、死なない程度に加減していたわけでもなかった。
坂上君、彼女達は澄田さんをどうしたと思う?
そうだよね。
普通……って言ったらおかしいけど、埋めるだけで済ませるよね。
でも、彼女達はそうしなかった。
澄田さんに暴力を振るった不良は3人いた。
そして、一番下っ端の子に澄田さんの処分を押し付けられたんだ。
名前は……黒川さんっていったかな。
黒川さんは澄田さんの死体を学校の裏山まで運んでいった。
そこに人1人が寝転がれる程度の穴を掘ってね、澄田さんを寝かせたんだ。
そのまま埋めてしまえばよかったのに、黒川さんはそうしなかった。
埋めるだけじゃ、不安だったのかもしれない。
黒川さんは学校からストーブ用の灯油を持ってくると澄田さんの全身にふりまいたんだ。
そして彼女は澄田さんに火をつけたのさ。
火のついたマッチを穴の中に投げ込んだんだ。
途端にものすごい悲鳴が聞こえた。
澄田さんはまだ生きていたんだ。
浅い穴の中で、彼女は炎に包まれてのた打ち回っていた。
黒川さんは驚いて、ただ呆然とそれを見つめているしかなかった。
澄田さんが生きているとは思わなかったし、生きている人間が火だるまになっているのがあまりにも衝撃的でね。
なにもできなかったんだ。
悪ぶっていても女の子だからね。
そうして立ち尽くす黒川さんの足を、穴からぬっと出てきた手が掴んだ。
澄田さんだよ。
彼女はそのまま黒川さんを穴の中に引きずり込むと、しっかりとしがみついたんだ。
また、裏山に悲鳴が響き渡った。
今度は黒川さんのものさ。
頭が真っ白になるような強烈な痛みが全身に襲い掛かるのさ。
悲鳴を上げるために息を吸い込めば、入り込んだ炎が胸の中を焦がすんだ。
いくらもがいても澄田さんは決して黒川さんの身体を離さなかった。
彼女は生きたまま焼かれ続けたんだ。
それも一気にじゃない。
自分の身体に火がついているんじゃないからね。
焼きゴテを体中に押し付けたみたいに、ジリジリと焼けていったのさ。

次の日の朝だよ。
学校に来た先生が生徒二人の死体を発見したんだ。
死んでいたのは澄田さんをリンチした不良たちさ。
黒川さんに澄田さんを押し付けた二人だね。
酷い姿だったそうだよ。
一人はトイレの中で焼け死んでいた。
トイレに入っている時、上から灯油を浴びせられたみたいでね。
ほら、よく聞くだろう。
いじめっ子が、個室に入った人に上から水をかけるやつ。
でも、彼女の場合は灯油だったんだよ。
そして、犯人はドアの下から流れてきた灯油に火をつけたのさ。
狭い個室の中はあっという間に火の海さ。
逃げようにも、焦っているのかなかなかドアを開けられない。
外に出たところで助かるわけでもないんだけどね。
そのまま、焼け死んでしまったんだよ。
むごい事をするよね。
でも、もう一人はもっと酷い死に方をしていたんだ。
灯油を無理やり飲まされてね。
口の中に火のついたマッチを入れられたんだ。
どういう事かわかるかい?
身体の中から焼かれるんだよ。
内臓に直接火をつけられてるわけだからね。
地獄だよ。
死体の顔は、凄まじい苦しみに歪んでいたんだって。
いったい誰がそんな事をしたんだろうね。
それで裏山の方の死体だけどね、かなり経った後に発見されたんだ。
動物に荒らされて、身元はわからなかった。
でね、裏山には死体が一つしかなかったそうなんだ。
そう、澄田さんと黒川さんどちらかは生きていたんだよ。
生きて彼女達に復讐したのさ。
自分が味わったのと同じ……もしかしたらそれ以上の苦しみを味わわせてね。
坂上君、君は二人の不良を焼き殺したのは誰だと思う?
おっと、今の質問には答えなくていいよ。
実はね。
この話を聞いて真犯人を当ててしまうと、彼女がその人を焼き殺しに来るらしいんだ。
この事は絶対新聞に書いておいてくれよ。
僕の話が原因で犠牲者が出るのなんてごめんだからね。

→4話目へ

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
font color
mali
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
ブログ内検索
プロフィール
HN:
三枝
性別:
非公開
趣味:
読書・映画・ゲーム
自己紹介:
S
稀に見る傑作。

A
おもしろい。

B
まあまあ。

C
標準ランク。人によってはB。

D
微妙。

E
読むのが苦痛なレベル。

F
つまらないを越えた何か。

×
エックスではなくバツ。よほどアレでない限り使わない。
最新CM
[04/03 未入力]
[05/04  ]
カウンター
P R
忍者ブログ [PR]