忍者ブログ
趣味で書いているレビューをネットに転載
[281]  [280]  [279]  [278]  [277]  [276]  [275]  [274]  [273]  [272]  [271
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

『食堂の小ビン』

俺が1話目か。
俺の名前は新堂誠。
3年だ。
これは俺が1年生の時の話なんだがな、俺のクラスに深口徹ってやつがいたんだよ。
これがとにかく食い物にうるさい奴でさ。
美食家ってやつか?
うまいものを食うのが生きがいみたいな奴だった。
グルメって言うと高級料理なんかが好きそうなイメージがあるだろう?
でも、深口はそうじゃない。
コンビニでも売っているような、どこにでもあるような物から探すのが好きだったんだ。

そんな深口が入学してさっそく目をつけたのが、この学校の食堂さ。
入学初日から食堂のメニューを順番に頼んでいってな。
どんな味がするのか楽しみにしていたんだよ。
でも深口はあの味じゃ満足しなかったんだ。
毎日毎日、ガッカリした顔で食堂から帰っていったよ。
中学まで昼飯は給食だろう。
新しく始まる高校生活にどうしても期待してしまうんだよな。
そして期待が大きい分、外れた時の落ち込みも大きいんだよ。
それで、学食のメニューの数なんてそんなに多くないだろう。
2月もしないうちに奴は食堂のメニューを制覇しちまったんだよ。
結局、奴のおめがねにかなうようなものはなかったらしい。
で、その後の深口なんだがな、奴だって普通の高校生さ。
安さと便利さに負けてそのまま学食に行き続ける事にしたんだよ。
別に食うもの全部にこだわりがあるわけじゃなかったからな。
奴のグルメはあくまでも趣味の範囲だったんだ。
だがな、奴はただでは転ばなかった。
自分なりに味を付けてみる事にしたんだ。
塩やらコショウやら学食にある調味料で料理を生まれ変わらせようとしたのさ。

でも、味を付けるっていってもそう簡単にいくもんじゃない。
毎日、色々試してはいたものの、元より酷くなる場合のほうが多かったそうだ。
なかなか思い通りにならずに困っていた深口はその日も調味料のビンを前に悩んでいたのさ。
そして見慣れない物があるのに気づいた。
大きさは他のビンより一回り大きくて、中には白い粉が入っている。
一粒が少し大きめなそれは、昨日まではなかった調味料だ。
塩でも砂糖でもない初めて見るやつさ。
調味料だって食い物には違いないからな。
食い物に関しては好奇心旺盛な深口だ。
さっそくその粉を試してみたんだよ。
とりあえず一振り、ご飯にかけてみたのさ。
「うまい!」
深口は声に出して驚いた。
まるで別のものを食べているような感覚だった。
あれほどまずかった米がまるで新米のような味がするんだよ。
深口はその調味料をご飯全体にまぶしてな、一口食うたびに感動に打ち震えてるんだよ。
あの深口が感激してるんだぜ。
俺もちょっと気になってな。
深口にビンのありかを聞いて、ちょっと味見したんだ。
残ってた飯にかけてみたのさ。
さぞかし良いものなんだろうと思ってたよ。
だが、俺は口の中に入れた飯を吐き出しそうになった。
とてもじゃないが食えたものじゃなかったんだ。
何の味もしないザラザラした硬い粒が口いっぱいに広がるんだ。
まるで砂を食っているようだった。
深口にからかわれたのかと思ったんだがな、あいつはすげえうまそうな顔して食ってるんだよ。
奴は友達にもその粉を薦めて何人かに食わせてたんだが、全員が俺と同じような反応だったよ。
まるで砂みたいだってな。
なのに、深口は不思議そうな顔をして言うんだ。
「なんで? こんなにおいしいじゃないか」
奴以外にその粉を気に入った奴はいなかった。
通にしかわからない味って事で片付けられたのさ。
坂上。
お前、その調味料使ってみたいか?
……だよな。
俺ももう二度とごめんさ。
だがな、他の奴が嫌うのとは正反対に深口はその粉にはまっていったんだ。
最初はご飯だけだったのが、出てきた料理全部にかけるようになってな。
あげくお茶にまでその粉を溶かしてたって話だ。
そのうち自分しか使わないからってその小ビンを私物にしちまったのさ。
食堂から持って帰って1日3食ありとあらゆる食い物にその粉をまぶしてたって話だ。
何食ってもうまくてしかたないって奴は大満足だった。
小ビンについて語る時、奴の顔は輝いていたぜ。
入学したての頃とは大違いさ。

それからだよ。
奴がおかしくなっていったのは。
ある日、いつも通り昼飯を食い終わった後の事さ。
深口は箸をじっと見つめたかと思うと、それをバリバリと食べ始めたんだよ。
口の中が傷だらけになって血が出てるのに、奴はうれしそうに口に含んだ箸を噛んでるんだ。
周りの奴もびっくりしてな。
しばらく呆然として、深口が咀嚼するのを見ていたんだ。
いきなりクラスメートが箸を食いだすんだぜ。
冷静でいられるわけがないよな。
俺もその一人だったんだが、少ししたら。
「お前、なにやってんだよ!」
って、慌てて叫んださ。
それで深口の奴も正気に戻ったみたいにはっとしてな。
箸を吐き出すと口の傷を痛がり始めた。
なんでそんな事をしたのか、自分でもわかってないみたいだった。

だが、それだけじゃ終わらなかったんだ。
深口はそれからも目に付いた物を口に入れ続けた。
消しゴムやチョーク、飾ってある造花、美術で筆を洗うための水……とにかく何でもさ。
例の粉をかければ何でもうまくなるだろう。
食い物とそうでないものの区別がつかなくなってしまったんだよ。
周りの奴が止めようとしても強引に飲み込んだり、気づかれないようこっそり食ったりするんだ。
とうとうトイレ掃除用の洗剤飲んでぶっ倒れちまってな。
救急車で運ばれていったんだ。
俺が深口を見たのはそれが最後さ。
奴は今、精神病院に入院している。
医者も原因がわからなくてな。
良くなる見込みはまったくないってよ。
この間、自分の舌を食べたそうだ。

……例の粉はなんだったのかって?
さあな。
深口が持っていたはずなんだが、いつの間にか消えちまった。
いくら奴の荷物を探しても見つからない。
奴の両親も深口の部屋を探したが見つからないし、本人もカバンに入れておいたはずだって言ってる。

坂上も気をつけろよ。
この学校にはおかしな場所がいくらでもあるんだ。
いつも普通に使っていたのに、ちょっと普段と違う事をしたら……なんて事もあるからな。

俺の話はこれで終わりだ。
次は誰が話すんだ?

→次の話へ

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
name
title
font color
mali
url
comment
pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
ブログ内検索
プロフィール
HN:
三枝
性別:
非公開
趣味:
読書・映画・ゲーム
自己紹介:
S
稀に見る傑作。

A
おもしろい。

B
まあまあ。

C
標準ランク。人によってはB。

D
微妙。

E
読むのが苦痛なレベル。

F
つまらないを越えた何か。

×
エックスではなくバツ。よほどアレでない限り使わない。
最新CM
[04/03 未入力]
[05/04  ]
カウンター
P R
忍者ブログ [PR]