シゴフミ4 Stories of Last Letter/雨宮 諒/ポコ/湯澤 友楼
C
『僕の名前を呼んでおくれよ』はまさかシゴフミでこんな話が、という異色作。
『Brother and Sister』はいつものペースを見せつつも、終局への布石を打ってくれた。
そして『終わりの始まり』『始まりの終わり』。前者は単体でも良作で、シゴフミの登場シーンには嘆息させられた。後者もグランドフィナーレとまでは盛り上がらなかったが、これまでの積み上げを生かす良いラストだった。少し時系列がややこしくなったが、既刊を見返せばすぐわかる程度。
ただ、“もう一人の文伽への手紙”(P90)がノータッチなのは残念。アニメで拾うのだろうが。
あと、今まで気になっていた原案者の存在もやっと解決。
C
久々に気持ち良く騙してくれた。
イカサマポーカーのスリルも良く書けており、ページをめくる手が止まらない。
ただ、この手の話は“策は失敗するも、主人公側が奥の手で勝つ”と決まっているようなものなので、『Sting2』最後の場面は余計だった。どうせ失敗だろ、という思いを強めてしまう。
また、さすがに入試編はもう少し短くても良かったのではないか。
あと、解説(香山 二三朗)内で著者が『賭博破戒録カイジ』パチンコ編を「傑作ミステリー」と評しているが…悪い冗談としか思えない。
C
TRPG『アルシャード ガイア』リプレイ。
『覚悟の扉』でも書いたが、やはりこの人のリプレイは読みやすい。
ルールブックと同時発売という事もあり、今回は特に気を使って執筆されたと思われる。 ゲームに初心者を交え、様々な説明を途中に織り交ぜたのもその一環だろう。
ただ、それゆえに特技の説明がページ端以外にも載ってしまう弊害も。
ストーリー自体は少々物足りない。主人公が戦いにおいての覚悟を決めるという、続き物のプロローグのような内容。
あと、2話目のミドルフェイズ07冒頭に「自身の傷を~」とあるが、ケガしてる描写なんかあったか?
ちなみにタイトルは“明日”と書いて“みらい”と読む。
C
良くも悪くも凡作。
つまらなくはないストーリーにそれなりのトリック。
やはりなにか一つ“ここ”といえるような売りが欲しかった。
欠点も、文章にぜい肉が多く削っても良さそうな表現が目に付く程度。とはいえ、『占星術殺人事件』のような読みづらさは感じなかった。
あと、喫茶店のテレビで流れた東京オリンピックはさすがに卑怯じゃないか…? あれは気づきようがないと思う。
ちなみにシリーズ物の8作目のようだが、これ単体で読んでも問題なし。
D
『魍魎の匣』に近い疲労感を残す作品。
人物や舞台等こりにこっており、人を選ぶ事請け合い。
そのわりには謎と解答におもしろみがなく、ラストの怒涛の展開も楽しめなかった。前述した疲労感や途中の退屈さから物語に引き込まれなかった事もあると思う。
これだけの要素を結合させ無駄なく使った完成度の高い作品だろうし、小説として含む所もたぶんにあるのだとは思うが、娯楽として見るとこのランク。
あと、最後に入っている野崎六助の長文が苦痛。
C
戯曲版を読了。
映画版である『情婦』を先に観たため知っていたオチだが、映画の時は前評判の良さに期待しすぎたせいかイマイチに感じたものの、改めて見るとそう悪くもない。
地の文がほとんどないこの形式も、言葉の応酬である裁判にマッチしていると思われる。
ただ、古い作品で、しかもイギリスが舞台なため情景がかなり想像しづらいのではないか。裁判のときにカツラをつけるなんて現代日本人には想像もつかないだろう。
サクッと読めて、しっかりひっくり返してくれる『クール・キャンデー』のような作品。私はあちらの方が好みだが。
C
『陽気なギャングが地球を回す』の続編。前作とのつながりはお遊び程度。こちらだけ読んでも問題はないが、一部「?」となる部分があるかもしれない。
前作ではセリフに散りばめられたジョークが売りだったが、今作では身体を張ったギャグが中心になっており、作品全体から緊張感がなくなっている。
また、意外な展開が多かった前作に比べると、読者を引っ張る力も弱い。
余談だが、以前ネットで“「いつも田中の情報や道具に頼っていると、またか、と思われる」(P317)って映画版『陽気なギャングが地球を回す』への皮肉では?”という意見を見たが、確かにそう読める。
響野が2度も言う「誰に」が妙に意味深。存在しない誰かへの語りかけって、たいてい読者に向けられている気がする。
まぁ、映画版は田中に頼りすぎどうこう以前の問題だったが。近年の原作物邦画の欠点を全部詰め込んだようなできだった。
C
解決編まで読者に伏せられている事実が多すぎた。
アンフェアとは言わないが、そのために衝撃度が薄まっている。
この手の話は、十分な情報が伏線として出されていたにもかかわらず、そこにまったく気づけない部分におもしろみがあると思うのだが…。
言われるまで騙されていただけに残念。
また、『乱れからくり』でも触れた文章(人物)についてはまったく違和感なし。失礼ながら泡坂さんも普通の小説が書けるのかと驚かされた。
ところで、館崎には頬をふくらませるクセがあるようだが、TVドラマ『踊る大走査線』の室井さんを想像すればいいのだろうか?
C
『愚者のエンドロール』に次ぐ、古典部シリーズ第三弾。
多視点形式で次々と描かれる文化祭の光景にまるでお祭り騒ぎを見物しているような楽しさを味わえる。
とにかく読んでいて楽しいが、それは証拠を集め仮説を立てていくミステリーよりキャラクター物を取った結果。
推理物としてみると前作より明らかにネタが弱い。
C
『夢幻巡礼』に次ぐ、神麻シリーズ(あるいはチョーモンインシリーズか)第五弾。
『現場有在証明』…ミスリードが下手。ちょっと考えれば読める。
『転・送・密・室』…作者お得意のドロドロ動機。ちょっと無理がある気もするが。
『幻視路』…まぁ、この中ではベストか。珍しくいい話。
『神余響子的憂鬱』…神余のキャラがナイス。チーフとの掛け合いも良かった。
『<擬態>密室』…上の話にも言えるが、新キャラの登場が全て。他はおまけ程度。
『神麻嗣子的日常』…このシリーズで初めて次巻が読みたいと思ったかもしれない。
神麻へのツッコミ役である神余と謎の人物リキの登場でやっとおもしろくなってきた。…推理物としてではないのが残念だが。
C
長坂 秀佳、真保 裕一、川田 弥一郎、新野 剛志、高野 和明による短編集。
『「密室」作ります』…ネタは悪くないけど、無駄に長い。
『黒部の羆』…『ホワイトアウト』のイメージがあったため完全に油断していた。
『ライフ・サポート』…何がしたかった? 小説としてもミステリーとしても物足りない。
『家路』…上に同じ。だが、さらに出来は悪い。
『二つの銃口』…謎解きはほぼないが、本書の中では一番引き込まれた。
D
いつも通りの軽快な文章とその場その場の展開で読んでいる途中は感じないが、終わってみるとストーリーの大きな流れがほとんどない。
『魔王』は主人公が世間の流れに不安を感じつつ自分の能力に気づいていくだけだし、『呼吸』も能力に気づく以外はただ日常が描かれているだけ。
世間の流れが凄まじくても個人レベルでの影響は少ないという意味かもしれないが、エンタメとしては×。
山場もなくオチもないとはこの事か。
読むのが苦痛ではないが、物足りない。
あと、『魔王』に『死神の精度』の千葉が出ている。
C
なぜかタイトルにもあらすじにも書かれていないが、『マザー・ハッカー』に次ぐ1999年のゲーム・キッズシリーズ第三弾。
『国境』はポポン国民の集団自殺オチかと思ったのだが…。やや、ありがちな終わり方で残念。
あと、あらすじの文だが、『国境』のどこがオウム事件を予見しているのかわからない。
B
ヨギ ガンジーシリーズ第三弾。本書だけ読んでも特に問題はないと思われる。
今回はちょっと特殊な本なので軽く紹介を。
本書はいくつかの袋とじから成っており、まずその表に書かれた文だけを読む事で短編小説となる。次に、今度は袋とじを破り全てのページを読む事で長編小説となるのだ。現在では新品入手が不可能なので、P16・17、32・33、48・49、64・65,80・81,96・97、112・113,128・129,144・145、160・161,176・177、192・193,208と読めば短編を再生できる。
では、レビューを。
短編が“消えて”、長編へと解け込む様はまさに手品を見せられているよう。ただの仕掛けではなく、同じ文章がまったく別の場面になるという他では得られないおもしろさを創り上げた。
ただ、繋ぎにやや違和感があったり短編のできがかなり微妙だったりと完璧に決まったわけではない。
また、前作に当たる『しあわせの書』でも書いた事だが、読み物としてイマイチで“本の形をしたおもちゃ”状態なのも難。
とは言え、今回は楽しみ所が全体に分散しているので読んでいてダルさは感じない。
あと、短編の方に『11枚のトランプ』からマジキクラブメンバーのゲスト出演あり。
稀に見る傑作。
A
おもしろい。
B
まあまあ。
C
標準ランク。人によってはB。
D
微妙。
E
読むのが苦痛なレベル。
F
つまらないを越えた何か。
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エックスではなくバツ。よほどアレでない限り使わない。