『中庭のヌシ』
はーーーーーーー全然ダメだね。
話にならない。
坂上君だっけ?
君もそんな満足げな顔してるんじゃないよ。
まさか君は今の話でいい記事が書けるとでも思っているのかい?
ダメだよそんな事では。
新聞に必要なものはなんだと思う?
……情報の正確さ?
違う違う。
新聞に必要なものといったらスクープに決まってるじゃないか。
ビッグでスペシャルでショッキングな特ダネさ。
さ、ついてきたまえ坂上君。
僕が取って置きのネタをつかませてあげよう。
あ、記事には「3年の風間先輩にこの話を紹介していただきました」って書くのを忘れるなよ
「ついたぞ」
風間先輩がそう言って立ち止まったのは中庭にある池の前だった。
「実はね……この中庭の池にはヌシがいるんだよ。
僕は今から君にヌシの姿を見せてあげよう。
この事を記事にすれば、新聞は大好評間違いなしさ
僕も女の子にモテモテに……おっと、無駄話はここまでだ。
さっそく始めようじゃないか。
えーっと、たしかこの辺りに罠をしかけたんだが……」
風間さんは池に手を突っ込むと罠を探し始めた。
少し待ってみるが、なかなか見つからない。
場所を変えたり、池の中を覗き込んだりしている。
もうだいぶ暗くなっているから探しづらいのかもしれない。
手伝った方がいいのだろうか。
そう思って僕が風間さんに近づいた時だった。
いきなり風間さんの背後に大きな人影が現れた。
「こらあ!
お前か! 池にいたずらをしたのは!」
用務員さんだった。
顔を真っ赤にして、カンカンに怒っている。
手には針金を組み合わせたようなガラクタを持っていた。
どうやら風間さんの言っていた罠とはこれの事のようだ。
「池にゴミを捨てるんじゃない!」
この場は謝っておいた方がいいだろう。
一応、この集まりの責任者は僕だし。
「すいません。
もう二度としませんから」
怒り狂う用務員さんに僕は何度も頭を下げた。
風間さんはいつの間にか他の人たちに混じって、ニコニコしながらこっちをみている。
なんなんだ、この人は。
ひたすら謝り続けて、お説教を受ける事数分。
なんとか許してもらえた。
「いやー、怖かったね。
ん? 君、怒っているのかい。
まぁ、いいじゃないか。
細かい事を気にしていると女の子にもてないぞ。
こうしてヌシを見る事もできたんだし、怒鳴られた事は水に流そうじゃないか。
え? なにを言っているかわからないって?
君こそなにを言っているんだい。
今の今までヌシがいたじゃないか。
用務員の主 正彦(ヌシ マサヒコ)さん
さ、早いとこ部室に戻ろうじゃないか。
この僕が蚊に刺されたりしたら一大事だからね。
次は誰が怖い話をしてくれるんだい?」
稀に見る傑作。
A
おもしろい。
B
まあまあ。
C
標準ランク。人によってはB。
D
微妙。
E
読むのが苦痛なレベル。
F
つまらないを越えた何か。
×
エックスではなくバツ。よほどアレでない限り使わない。