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『調理実習室の鬼』

次は私が話すの?
私の名前は岩下明美。
3年生よ。

坂上君?
あなた、調理実習は好きかしら?
そう、好きなの。
女の子の手料理が食べられるからってところかしら?
ふふ、その顔は図星ね。
あら、照れなくてもいいのよ。
男の子なら誰でもそう思うわ。

これから私が話すのは調理実習室の話。
坂上君?
これを聞いた後でも、あなたは調理実習が好きでいられるかしら?

昔、私が入学するよりもずっと前の話よ。
ある夜、宿直の先生が調理実習室で物音がするのに気づいたの。
部屋の前に行ってみるとやはり中からなにか聞こえる。
扉の隙間から覗いてみた先生は見てしまったの。
こちらをじっと見つめている鬼をね。
鬼って言うとたくましい姿を想像するでしょう。
でも、そこにいたのはガリガリにやせた一つ目の怪物だったのよ。
赤い肌が骨に張り付いているかのようにやせ細っていたの。
鬼は先生の方にフラフラとよってきた。
「足りない……足りない……」
よだれを垂らした口からそんな言葉を漏らしながらね。
あまりの恐ろしさに先生はその場で気絶してしまったわ。
次の日、先生は調理台の上で寝かされているのが見つかったそうよ。
特に異常はなかったんだけど、それが原因で辞めてしまったの。

……あら?
坂上君、どうしたの、そんな顔して?
そうよね。
これだけじゃ、ちょっと物足りないわよね。
安心して、この話にはまだ続きがあるのよ。
私が1年の時、クラスメイトに里原真理子さんって人がいたの。
怖い話が好きな彼女はこの話を聞いた時ガッカリしたわ。
ちょうど今のあなたのようにね。
せっかくおもしろくなりそうだったのに、何もなしで終わってしまったんですもの。
先生が死んでいれば怖かったのに、なんて言っていたわ。
よく平気でそんな事言えるわよね。
もしかしてこの話を信じていなかったのかしら。
これだけでは物足りないと思った里原さんはその後どうしたと思う?

……勝手に話を付け足した?
なに?
坂上くんならそうするの?
人から聞いた本当の話に、嘘の話を混ぜるの?
ダメよ、そんな事をしては。
私は嘘が憎くて憎くてたまらないの。
もし私の話に変な小細工してみなさい。
あなたの事、呪ってやるから。
死ぬより恐ろしい目に合わせてあげるわよ。
ふふふふふふふふ……。
でも、私はできる事なら坂上くんを呪ったりしたくないの。
だから、記事には本当の事だけを書いてね。

すっかり話が逸れてしまったわね。
里原さんは自分でその鬼を見てみる事にしたのよ。
一緒にその話を聞いていたクラスの子がそう言い出したの。
名前は……確か、木見孝好くんだったかしら。
木見くんは彼女に言ったわ。
あんな話でも自分が体験してみれば怖いんじゃないかってね。
もし一人で行くのが怖いなら自分がついて行ってもいいって。
木見くんって里原さんの事が好きだったみたいなの。
デートに誘うような気でそう言い出したのね。
坂上くん、里原さんはどう答えたと思う?
……そう。
彼女は断ったわ。
せっかく怖い体験をしにいくのに一人きりじゃないとつまらないって。
木見くんについてこられても邪魔だって。
酷い言い方よね。
木見くんはなにも言わなかった。
それっきり黙りこんでしまったの。

その夜、里原さんは夜の学校に忍び込んだわ。
調理実習室に向かうと確かに中から物音が聞こえる。
彼女はドアの隙間から、そっと中を覗いてみたの。
確かに部屋の奥の方になにかいるのがわかったわ。
でも、暗くてよく見えない。
里原さんは静かにドアを開けるとそのなにかに近づいていったの。
机の影に隠れながらね。
そこにいるのは小さな鬼だった。
噂で聞いたようにガリガリに痩せていたわ。
背も低くて、まるで欠食児童みたいだった。
小鬼はその時、調理台でなにかをしていたのよ。
でも、暗くてよく見えなかったわ。
小鬼は包丁でとても大きな何かを切っているようだった。
里原さんは目を凝らして調理台の上を見つめたの。
そして、小鬼がなにをしているのかわかった瞬間、彼女は固まったわ。
調理台の上に転がっているのは木見くんだったの。
小鬼は木見くんの腕や足をさばいていたのよ。
魚をおろすように骨から肉を切り離していたの。
凍りついた里原さんはただその光景を見ているしかなかった。
いくら怖い話が好きとはいえ、女の子にはショックが強い光景よね。
鬼は淡々と木見くんの肉を包丁で切っていく。
時が止まったように彼女はそれを見ていたわ。
いったいどれほどの間、そうしていたのかしら。
台の上の木見くんが里原さんの方を見たの。
彼はまだ生きていたのよ。
手足を切り落とされていたけど、まだ頭と胴体は無傷だったの。
意識のあるまま、調理されていたのよ。
活け造りみたいにね。
木見くんは目が合った彼女に助けを求めたわ。
「助けてくれ!」
ってね。
当然、小鬼も里原さんに気づくわよね。
彼女の方に向かって来たわ。
赤い肌についた木見くんの血が、月明かりでぬるぬる光っていた。
里原さんは悲鳴を挙げて、その場から走り去ったわ。
彼女は木見くんを見捨てたのよ。

次の日、木見くんは冷蔵庫の中から見つかったわ。
骨が取り除かれて肉だけにされてね。
バラバラになって発見されたの。

あの日、木見くんは里原さんを脅かそうとしていたのよ。
先回りして、里原さんを調理室で待ち伏せしていたの。
酷い事を言った里原さんに復讐しようとしたわけじゃない。
ただ、彼女と仲良くなりたかっただけなのよ。
ちょっとビックリさせて、それがきっかけで親しくなれればって思っていたのね。
そこを小鬼に捕まってしまったの。
かわいそうな木見くん。
でも、おかげでこんなにも怖い話になったのだから、彼も満足しているんじゃないかしら。
ふふふ……。
もっとも、里原さんには刺激が強すぎたみたいだけどね。
それ以来、怪談話はてんでダメしまったそうよ。

そうそう、どうして先生が助かったのかを言い忘れていたわ。
先生の見回りは、ちょうど調理室の包丁を入れ替える日と重なっていたの。
あの夜、調理室には包丁が一本もなかったのよ。
だから、先生は助かったの。
そう、あの調理室の包丁は人の肉をさばいているものなの。
小鬼の犠牲になったのは木見くん以外にも何人かいるようだから。
たっぷりと血が染みてるんじゃないかしら。
ふふ……坂上くん、顔が青いわよ?
でも、大丈夫。
噂では小鬼には愛用の包丁があるらしいから。
人を切っているのはどれか一つだけって話よ。
当たりを引かないよう気をつけてね。

私?
私は調理実習で作った物には絶対に箸をつけないわよ。
だって、どれが小鬼の包丁なのか見分ける方法はないんですもの。

→6話目へ

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