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『写真部のカメラ』

とうとう7人目は来ませんでしたね。
僕が最後ですか。
2年B組の荒井昭二です。
いやあ、さすが日野さんが集めた方たちですね。
僕もこの学校について調べてはいますが、まだこんなに恐ろしい話があったとは。
どうです、坂上君?
いい記事が書けそうですか?
僕の話もいい記事にしてくださいよ。
坂上君のために取って置きの話を用意したんですから。

実は僕、最初は日野さんの誘いを断っていたんです。
霊と僕たちとは別の世界の住人なんです。
関わらないに越した事はありません。
これから僕が話すのは野望のために霊に近づいた男の話です。
ちょうど今のあなたのようにね。

僕が1年の時の同級生に遠野大介君という生徒がいたんです。
遠野君は写真を撮るのが趣味でしてね。
写真部に所属していました。
なんでも今まで写真が趣味の人に会った事がないそうなんです。
たしかに、ちょっと珍しい趣味ですからね。
だから、クラスでもカメラの話はほとんどしませんでした。
もう話せる人を探すの諦めていたんでしょう。
そのぶん、彼は部活動には熱心に参加していました。
毎日、授業が終わるとうれしそうな顔をして部室に向かっていきましたよ。
当時、僕はサッカー部に入っていましてね。
厳しい練習で憂鬱な放課後を過ごしていた僕にとって彼はなんとも羨ましい存在でした。
実はサッカー部に関して僕が体験した話があるのですが……それはまたの機会にしましょう。

そうして楽しく活動していた遠野君だったのですが、ちょっとした事故で自分のカメラを壊してしまったんです。
あれはただの偶然だったのでしょうか。
それともこの学校の霊たちが起こした現象だったんでしょうか。
もう直せないほど酷い壊れ方だったそうです。
カメラなんて安い物ではありませんからね。
高校生である遠野君に新しいカメラを買えるようなお金はありませんでした。
部活にいけば友達がカメラを使わせてくれるものの、ずっと借りっぱなしというわけにもいきません。
せっかく高校で本格的に写真を取れると思った矢先のできごとで、遠野君はひどくガッカリしていましたよ。

そんな、ある日の事です。
遠野君は部室で古ぼけたポラロイドカメラを見つけました。
写真部の人たちに聞いても、そんなカメラは知らないと言われます。
そもそも写真部にはポラロイドカメラを使っている人がいなかったんです。
個人で持っている人は何人かいましたが、部活動で使っている人は誰ももいませんでした。
せっかく暗室で現像できるのに、もったいないですからね。
写真を撮れない毎日にストレスが溜まっていたからでしょうか、遠野君はそのカメラを自分の物にしてしまったんです。

彼は風景の写真を撮るのが好きでした。
遠野君は数週間ぶりに自分のカメラで写真を撮ったんです。。
誰に気兼ねする事もなく、好きなだけアングルを考えてから撮影しました。。
彼の写真生活の中でも格別の一時だったのではないでしょうか。
ところが、カメラから出てきた写真を見た途端、彼のそんな気持ちはどこかに吹き飛んでしまいました。
霊が写っていたのです。
あるはずのない場所に、人の横顔が覗いていました。
初めて見る心霊写真に遠野君はなんとも言い表しがたい嫌な気分になりました。
それでもまた別の場所に行って撮影をしたんです。
それだけ遠野君は写真が好きだったんでしょう。

ところが、次に撮った写真にも霊が写っていました。
今度は、それだけではありません。
写っていたはずの人が消えていたんです。
彼は校庭を撮影したのですが、そこで練習していたはずの運動部員が誰一人写っていなかったんです。
おかしいですよね?
もうそうなると写真どころではありません。
遠野君はカメラの事が気になってしかたなくなりました。
普通ならそんな気味の悪いカメラ手放してしまいそうですがね。
彼は何度か試して、そのカメラに不思議な特徴がある事を見つけたんです。
まず、そのカメラで人を写すとなぜか消えてしまう事。
そしてもう一つ、そのカメラで写真を撮るとかなりの確立で心霊写真が取れる事でした。
どうでしょう?
もしあなただったら、このカメラどうしますか?

……僕もそうすると思います。
そんな物を持っていて、いい事があるとは思えませんからね。
でも、遠野君は違いました。
そのカメラで写真を撮り続けたんです。
それだけ彼の写真に対する思いが熱かった?
たとえ変なカメラでも、写真を取れないよりはマシだった?
いいえ、違います。
彼はそうして撮影した心霊写真を他の生徒に売りつけ始めたんです。
心霊写真なんてそうそうお目にかかれるものではありませんからね。
多くの人が彼の写真を買い求めました。
その中には新聞部の生徒もいたそうです。
校内新聞の記事にでも使うつもりだったんでしょうか。
好奇心でそんな物を買ってはいけないとわからなかったんでしょうか……失礼、坂上君には関係のないことでしたね。
そうして遠野君はお金を集めていったんです。
この学校には生徒がたくさんいますからね。
客に困るような事はありませんでした。
僕ですか?
買ったりしませんよ。
むしろ彼に注意しました。
そんな霊を怒らせるような事はしない方がいいってね。
でも、遠野君は聞く耳をもちませんでした。
新しいカメラを買うまでだから、と言って写真を売り続けたのです。
あの時、もっと強く止めていれば遠野君は助かったのかもしれません。
でも、僕にはそうは思えないんです。
彼は既にその時、霊にとり憑かれていたように思えるんです。

遠野君は新しいカメラを買った後も、心霊写真を売り続けました。
いわゆる心霊スポットですか。
霊が良く撮れる場所も探し当てたようで、信じられないほどたくさんの霊が写っている写真も持っていましたよ。
彼は昼休みに写真を売った後、放課後になると新しいものを撮影していたんです。
そうして、1年が過ぎました。
遠野君は2年生になりました。
写真部にも新しい部員が入ってきます。
新入生達の中には高校生になってから写真を撮り始めるような子もいました。
まだカメラを持っていない彼らに練習させる際、遠野君は例のポラロイドカメラを使いました。
高いお金を出して買った自分のカメラを貸したくなかったのでしょう。
好きなものを撮るように言って、そのカメラを渡したんです。
すると後輩は遠野君の事を撮影したんですよ。
ちょっとしたいたずらのつもりだったんでしょうね。
写された遠野君は逆にその後輩の事を脅かしてやろうと思いました。
なにせ遠野君の姿は写らないんですからね。
なにも知らない後輩はさぞ驚く事でしょう。
案の定、写真を見た彼は不思議そうな声を出しました。
遠野君は心の中で笑いながら、後輩になにかおかしいところでもあるのかと聞きました。
そして後輩の手の中を覗き込んだんです。
ところが写真はちゃんと写っていたんですよ。
うっすらとではありますが、遠野君の姿が写っています。
彼は焦りました。
もしかしてカメラから不思議な力が消え始めているのではないか。
そうしたら、もう今までのようにお金を稼ぐ事はできなくなります。
彼はカメラの力を確かめようとしました。
部活動が終わったあと、彼が知っている中でも特に霊の集まる場所に向かったんです。
そこは旧校舎にある倉庫のような場所でした。
当時使っていたであろう道具なんかがたくさん置いてあったんです。
彼は暗くなり始めた校舎に入ると、その部屋でカメラを使ってみました。
現像した写真を確認するとくっきりと霊たちが写っています。
彼はほっと胸をなでおろしました。
しかし、妙な事に気づいたのです。
それまで撮った写真の霊たちは皆、好き勝手な方を向いていました。
ですが、今撮った写真ではどの霊も写真に対して正面を向いていたのです。
カメラ目線と言えばわかりやすいでしょうか。
なんとなくおかしくて遠野君は笑ってしまいました。
珍しい写真が取れたと喜んで帰ろうとした時です。
彼はある事実に気づいて戦慄しました。
霊たちがカメラの方を向いていたのは、自分の事を見ていたからではないか、とね。
青ざめた顔を上げると、目の前に無数の手が迫っています。
「わあああぁぁぁぁああああぁぁぁ!!」

遠野君はそのまま行方不明になりました。
旧校舎に入った後の足取りがまるでつかめないそうです。

魚眼カメラって知っていますか?
魚の目から見たような写真が取れるカメラの事だそうです。
僕が思うに、遠野君が持っていたカメラは霊の視界を再現するカメラだったのではないでしょうか。
ある説では、人から霊たちが見えないのと同じように、霊からは人の姿が見えないのではないかと言われています。
もしそうだとしたら、あのカメラに人が写らず心霊写真ばかりが取れた理由も説明できると思うんですよ。

霊の世界に近づきすぎた遠野君の姿を霊たちも見えるようになっていたのではないでしょうか。
そして遠野君は彼らの世界に引きずり込まれてしまったのではないでしょうか。

え?
そのカメラですか?
わかりません。
遠野君といっしょに消えてしまったんです。
でも、この学校では見覚えのないカメラが現れる事があるそうです。
誰も気づかないうちに、いつの間にか棚や机の上に置いてあるそうですよ。
遠野君が仲間を探しているのでしょうか。
もしかしたら、もともと霊たちが仲間を増やすために作り出した道具なのかもしれません。
ところで、坂上君。
そこの棚に置いてあるカメラは新聞部の物ですか?
僕がここに来た時、あんな物は置いてなかった気がするのですが……。

→7話目へ

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